「技術的な内容をどう効果的に発信すべきか」「専門メディアとの関係をどう構築すべきか」BtoB企業のPR担当者が直面するこうした課題に、本記事で具体的な解決策を提示します。専門性の高い情報発信と、長期的な信頼関係構築を両立させる実践的なアプローチをご紹介していきましょう。
私は10年以上、製造業や情報テクノロジー分野のBtoB企業向けPR支援に携わってきました。
本記事では、そうした実践経験から得た知見をもとに、BtoB PR戦略の基本から専門メディアとの効果的な関係構築方法、技術広報の実践手法まで、体系的に解説していきます。このガイドを読めば、技術的な内容を効果的に伝えるコツと、業界専門メディアとの持続可能な関係構築のためのステップが明確になるでしょう。
BtoB PRの成功は一朝一夕には実現しません。しかし、適切なアプローチと継続的な取り組みがあれば、確実に成果につながっていくものです。それでは、まずはBtoB PR戦略の基本的なフレームワークから見ていきましょう。
BtoB PR戦略の基本フレームワーク
PR業界で15年以上働いてきた私が、最初にBtoB企業のPR担当になったとき、本当に戸惑ったことを覚えています。「BtoCとは全く違うアプローチが必要なのでは?」「専門性の高い内容をどう伝えればいいの?」と悩んだ日々。特に技術系の内容を記者に伝える際、専門用語と分かりやすさのバランスに苦労しました。
今回は、そんな試行錯誤から学んだBtoB PR戦略の基本フレームワークをお伝えします。たくさんの失敗と少しの成功を重ねて見えてきた、効果的なアプローチ方法をご紹介しますね。
BtoB PRの特性と重要性
BtoB PRの最大の特徴は、「専門性の高さ」と「ステークホルダーの限定性」にあります。私が某製造業のPRを担当したときのこと。技術的な新製品発表で、最初は一般消費者向けのPRと同じアプローチを試みました。わかりやすく、インパクトのある表現を使ったプレスリリースを配信したのです。
結果は散々でした。専門メディアからは「技術的詳細が不足している」と指摘され、一般メディアからは「専門的すぎて取り上げられない」と言われる始末。両方に刺さらない中途半端な内容になってしまったんです。ああ、今思い出しても冷や汗が出ます…。
この経験から学んだのは、BtoB PRでは「誰に」向けた情報発信かを徹底的に絞り込むことの重要性です。特に以下の点が重要になります:
- 意思決定者への直接的なアプローチ: ビジネスの購買決定は組織的に行われるため、その意思決定に関わる層に焦点を当てる
- 長期的な関係構築: 一度の露出ではなく、継続的な信頼関係の構築を念頭に置いた情報発信
- 専門性と信頼性の両立: 正確な情報と専門知識を示しながらも、アクセシブルな表現を心がける
業界データを見ても、BtoB企業の約73%が「メディア露出」を重要なマーケティング目標と位置づけている一方で、実際に効果的なPR活動ができていると感じている企業はわずか28%という調査結果があります。この差がBtoB PRの難しさと重要性を物語っていますね。
BtoCとの違いと押さえるべきポイント
BtoCとBtoBのPRアプローチの違いは思った以上に大きいものです。あるIT企業のPRを担当したとき、最初は消費者向けアプリのPR経験をそのまま活かそうとしました。「革新的」「画期的」といったキャッチーな表現を多用したのですが、専門記者からは「具体的な技術的優位性が見えない」と厳しい指摘を受けたものです。
BtoBとBtoCの主な違いをまとめると:
情報の深さと専門性:
- BtoC: 感情に訴えかける、シンプルでキャッチーな内容
- BtoB: データに基づく詳細な分析と専門的知見の提供
意思決定プロセス:
- BtoC: 個人の好みや感情に基づく比較的短いプロセス
- BtoB: 複数関係者による論理的・組織的な長期的検討
メディア選定:
- BtoC: 一般消費者向けの幅広いメディア
- BtoB: 業界専門メディアや特定のビジネスパーソン向けメディア
メッセージング:
- BtoC: 「あなたの生活がこう変わる」
- BtoB: 「あなたのビジネスにこのようなROIをもたらす」
この違いを理解していなかったため、私は初めてBtoBのPRを担当したときに大きく躓きました。「なぜ記者が興味を持ってくれないんだろう?」と悩む日々。そこで気づいたのは、BtoBではまず「業界全体の課題」に対する解決策として自社の製品・サービスを位置づける必要があるということでした。
戦略立案のステップと必要な要素
失敗から学び、少しずつ効果的なBtoB PR戦略を立案できるようになってきました。今では次のような5ステップのフレームワークで考えるようにしています:
1. 業界環境の理解と分析
まず業界の現状課題やトレンドを徹底的に調査します。たとえば、製造業向けのシステムを提供する企業のPRでは、製造現場のデジタル化ニーズの高まりについてのレポートや統計データを集め、「業界全体の課題」を明確にしました。
2. ターゲットステークホルダーの特定
「誰に」情報を届けるかを明確にします。ある産業機器メーカーのケースでは、最終的な購買決定者(工場長クラス)、影響力を持つ技術責任者、そして専門メディアの3層に分けてアプローチを設計しました。
3. 自社価値の言語化
技術的な特長を「ビジネス価値」に翻訳することが重要です。「0.01mmの精度」といった技術スペックではなく、「製造過程での不良品率を15%削減」といった価値に置き換えます。
4. メディア戦略の策定
業界専門メディアを中心に、影響力のあるメディアを特定します。ここでよくやってしまった失敗は「とにかく多くのメディアにアプローチする」こと。実際には、少数でも影響力の高いメディアに集中した方が効果的なことがほとんどです。
5. コミュニケーションスケジュールの設計
短期的な単発のPRではなく、年間を通じた継続的な情報発信計画を立てます。業界イベントや、市場の季節性を考慮したタイミングで情報を出していくことで、一貫したメッセージを伝えられるようになります。
このフレームワークを使って、あるSaaS企業のPR戦略を立案したところ、前年比で業界メディアの掲載数が3倍に増加したことがあります。特に効果があったのは、業界の課題(この場合はリモートワーク下でのプロジェクト管理)に関する独自調査結果を定期的に発表する取り組みでした。
BtoB PRの成功には、「専門性の高さ」と「わかりやすさ」のバランスが不可欠です。私自身、このバランスを見つけるまでに何度も失敗を繰り返してきました。でも、目の前のビジネスパーソンの課題解決にどう貢献できるかを常に考え、そこに自社の専門性をどう活かせるかを考えることで、少しずつ道が開けてきたように思います。
BtoB PRは地道な積み重ねですが、だからこそ一度構築した関係性や信頼は長く続くものです。みなさんも自社の強みを活かした、効果的なPR戦略を組み立ててくださいね。
次回は「専門メディアとの効果的な関係構築」について、私の失敗談も交えながらお話ししたいと思います。
専門メディアとの効果的な関係構築
BtoB PR活動において、専門メディアとの関係構築は成功の要となります。私自身、10年以上BtoBの広報に携わってきた経験から、一般メディアと専門メディアでは接し方がまったく異なることを痛感してきました。ここでは、その違いを踏まえた効果的なアプローチ方法についてお伝えします。
専門メディアの特性を理解する
専門メディアは一般メディアと比べて、読者層が明確で専門性が高いという特徴があります。製造業、IT、医療、金融など、各業界には必ず専門誌やオンライン専門メディアが存在します。これらのメディアは、その業界内での影響力が非常に大きく、信頼性も高いのが特徴です。
私が以前、製造業向けのソフトウェア会社で広報を担当していた時のことです。一般紙に何度プレスリリースを送っても、ほとんど取り上げられませんでした。しかし、製造業専門誌に同じ内容を送ったところ、詳細に記事化されたのです。この経験から、「どのメディアに情報を届けるべきか」という的確な選択の重要性を学びました。
専門メディアの特性として押さえておくべきポイントは以下の通りです:
- 専門的な知識を持つ記者が多い
- 業界内の細かいトレンドやニュースに精通している
- 読者の専門性が高く、技術的な内容も理解できる
- 掲載された情報の信頼性が高く評価される
- 発行部数は少なくても、業界内の意思決定者への到達率が高い
これらの特性を理解した上で、専門メディアとの関係構築に臨むことが大切です。
記者との信頼関係構築の実践手法
専門メディアの記者との信頼関係は一朝一夕に築けるものではありません。私も何度も失敗を繰り返してきました。初めは「良い製品だから取り上げてもらえるはず」と安易に考えていましたが、記者にとっては「また一社の宣伝か」という印象しか与えていなかったのです。
ある時、あるIT専門誌の記者から直接アドバイスをいただく機会がありました。「PRではなく、業界の課題解決に貢献する視点で情報提供してほしい」という言葉でした。この助言をきっかけに、アプローチを根本から見直したところ、関係性が大きく改善したのです。
具体的な関係構築のポイントをいくつかご紹介します:
1. 業界視点での情報提供
単なる自社製品のPRではなく、業界全体の課題や動向について情報提供できる存在になりましょう。例えば、自社の市場調査データや業界トレンド分析を記者に提供するなど、記事作成の役に立つ情報を持ちかけることで信頼を得ることができます。
私の場合、四半期ごとに行っていた顧客企業への満足度調査データを匿名化して専門誌に提供したところ、「製造業の現場が抱える課題」としての特集記事につながりました。その記事内で自社製品について触れられることもありましたが、それはあくまで自然な流れの中でのことでした。
2. 一貫したコミュニケーション
記者にとって、PRの担当者が頻繁に変わるのは困りものです。可能な限り担当者を固定し、一貫性のあるコミュニケーションを心がけましょう。また、連絡は定期的に取りつつも、必要以上に頻繁にしないことも大切です。
私は月に一度、新しい動きがなくても簡潔な業界動向のメモを添えてメールするようにしています。押し付けがましくならない程度の頻度と内容を心がけ、「この人からのメールは価値がある」と思ってもらえるよう工夫しています。
3. 記者の専門分野・興味を理解する
記者にも得意分野や特に注目しているテーマがあります。こうした情報を把握して、関連性の高い内容を提供することで、記事化の可能性が高まります。
以前、ある記者がAI技術に強い関心を持っていることを知り、自社製品のAI関連機能について詳しく説明する機会を設けました。その結果、製品全体ではなく、AI機能に特化した形で記事化されたことがあります。このように、記者の関心に合わせた情報提供が効果的です。
4. 締め切りを尊重する追加情報提供
記事作成中の記者から追加情報を求められた場合は、できる限り迅速に対応しましょう。「明日までには」と言われたら、できれば当日中に返答するくらいの姿勢が信頼につながります。
あるとき、金曜日の夕方に記者から緊急の質問が届き、社内の技術部門に確認が必要な内容でした。週末を挟んでしまうところでしたが、技術担当者に連絡を取り、その日のうちに回答を返しました。この対応が評価され、その後も優先的に連絡をもらえるようになりました。
技術的な情報提供のベストプラクティス
BtoB企業、特に技術系企業のPRにおいて最も難しいのが、専門的な情報をいかに伝えるかという点です。技術者が書いた資料をそのまま記者に渡しても、専門メディアであっても理解されないことがあります。
私もITソリューション会社で働いていた際、エンジニアが作成した技術資料をそのまま提供してしまい、「何が言いたいのかわからない」と記者から指摘されたことがあります。それ以降、技術情報の提供方法に工夫を重ねてきました。
1. 技術情報の階層化
情報を「概要」「基本説明」「詳細資料」の3層に分けて用意します。記者の技術理解度や記事のタイプに応じて、適切な層の情報を提供できるようにしておきましょう。
私の場合、以下のような3段階の資料を用意しています:
- 概要資料:経営層やビジネス担当記者向けに、技術的な用語を最小限に抑えた1枚もののサマリー
- 基本説明資料:ある程度技術に詳しい記者向けに、図解を多用した5〜10ページの解説資料
- 詳細資料:技術記者向けに、細かい仕様やベンチマークデータなどを含む詳細資料
記者の反応を見ながら、必要に応じて情報を深堀りしていくアプローチが効果的です。
2. ビジネスインパクトとの紐付け
どんなに革新的な技術でも、それがビジネスにどのようなインパクトをもたらすのかが明確でなければ、記事としての価値が低くなります。技術説明と同時に、以下のポイントを必ず含めるようにしましょう:
- この技術で解決される具体的な業界課題
- 導入による定量的なメリット(コスト削減率、効率化率など)
- 実際の導入事例(可能であれば)
一度、画期的なアルゴリズムについてプレスリリースを出したものの、ほとんど反応がありませんでした。しかし、同じ技術を「生産効率を15%向上させた実績」という切り口で再発信したところ、複数のメディアに取り上げられました。技術そのものよりも、その価値を伝えることの重要性を痛感した瞬間でした。
3. 視覚的な補助資料の活用
複雑な技術や概念は、文章だけでなく図解やインフォグラフィックスを活用して説明すると効果的です。特に以下のようなツールが役立ちます:
- Before/Afterを示す比較チャート
- 仕組みを説明するフローチャート
- 数値データを視覚化したグラフ
- 実際の使用イメージを示す写真やスクリーンショット
私が担当した製品発表では、複雑なシステム構成図を簡略化したイラストを作成し、記者説明会で使用しました。「初めて仕組みが理解できた」と好評で、そのイラストがそのまま記事内で使用されることも多かったです。
4. 専門家インタビューの設定
記者が技術を深く理解するためには、プレスリリースや資料だけでなく、実際の開発者や技術責任者との対話が重要です。インタビュー機会を積極的に設定することで、記事の質と量が大きく向上します。
ただし、すべての技術者がメディア対応に適しているわけではありません。私の経験では、技術者に対しても以下のポイントをレクチャーしておくことが大切です:
- 専門用語をできるだけ避け、平易な表現を心がける
- 複雑な概念は具体的な例えを用いて説明する
- 「なぜそれが重要か」という視点を忘れない
- 記者の質問に正確かつ簡潔に答える
一度、技術者と記者の対談を設定した際、事前準備が不十分で話がかみ合わないことがありました。それ以降は、必ず事前に想定Q&Aを作成し、技術者と共有するようにしています。この準備が、質の高いインタビュー記事につながっています。
長期的な関係構築のためのポイント
専門メディアとの関係は、長期的な視点で構築していくことが重要です。一時的な露出だけを目指すのではなく、業界内での信頼できる情報源として認識してもらうことを目指しましょう。
私が特に意識している長期的な関係構築のポイントは以下の通りです:
1. 定期的な情報交換の場の設定
半年に一度程度、新製品発表などの具体的な案件がなくても、情報交換会や懇談会の形で記者とのコミュニケーションの機会を設けることが有効です。
私の場合、四半期ごとに「業界動向勉強会」という形で、自社の市場分析担当者を交えた少人数のランチミーティングを開催しています。このような非公式な場での対話が、後々の情報提供や取材につながることが多いです。
2. 業界イベントでの関係強化
展示会やカンファレンスなど、業界イベントは記者との関係を深める絶好の機会です。自社ブースへの招待だけでなく、同じセッションに参加したり、イベント後の懇親会で話したりする機会を積極的に作りましょう。
あるIT展示会では、自社ブースの説明だけでなく、競合他社の出展内容も含めた「業界トレンドツアー」を企画し、記者を案内したことがあります。公平な視点でのガイド役を務めることで、業界に精通した信頼できるパートナーとしての印象を強化できました。
3. 独自調査データの定期提供
自社で定期的に行っている市場調査や顧客調査があれば、そのデータを専門メディアに優先的に提供することで、継続的な露出機会を確保できます。
私たちの会社では、年2回の「業界動向調査」を実施しており、その結果を専門メディアに先行してお届けしています。調査内容も、記者からの意見を取り入れて設計することで、メディアにとっても価値の高い情報となっています。この取り組みにより、定期的に特集記事や連載コラムとして掲載される機会が生まれています。
技術広報の実践手法
技術広報は、BtoB PRの中でも特に難しい分野だと感じている方も多いのではないでしょうか。私自身、前職のPR会社で技術系企業のクライアントを担当していた当初は、技術的な内容をどう分かりやすく伝えるか、本当に頭を悩ませました。でも、試行錯誤の末にいくつかの効果的なアプローチ方法を見つけることができたんです。今回はその経験を踏まえて、実践的な技術広報のポイントをお伝えします。
技術情報の「翻訳者」を目指す
技術広報の最大の課題は、専門的な情報を「翻訳」することにあります。私が担当していた半導体関連企業では、エンジニアが書いた技術資料があまりにも専門的で、そのままでは記者に伝わらないことが多々ありました。
効果的だったのは、まず自分自身が「最初の読者」になるという姿勢です。「これはどういう意味だろう?」と思った時点で、おそらく記者も同じ疑問を持つでしょう。疑問点は必ずエンジニアに確認し、「もし私の母が聞いたらどう説明するか」というくらいの分かりやすさを目指して言い換えます。
例えば、「フォトニックセンシング技術の革新的アプローチにより、従来比30%の検出効率向上を実現」という技術的な表現は、「光を使った新しい検知方法で、これまでより3割も正確に物体を認識できるようになった」と言い換えることで、技術的バックグラウンドがない記者でも価値を理解できるようになります。
「なぜ重要か」を先に伝える
技術的な説明に入る前に、必ず「なぜこの技術が重要なのか」「どんな問題を解決するのか」を先に伝えることが大切です。いきなり技術的な詳細から入ると、記者は「で、それがなぜニュースなの?」と興味を失ってしまいます。
あるIoTセンサー企業のプレスリリースを担当した際、最初は技術スペックから始まる原稿でした。これを書き直して「工場の生産ラインで起こる機械の故障を、実際に壊れる前に予測できるようになり、製造業の大きな課題だった突発的な生産停止を防げるようになります」という文から始めたところ、記者からの反応が格段に良くなりました。
技術広報では「What(何を開発したか)」よりも「Why(なぜそれが重要か)」「What’s in it for me?(読者にとっての価値は?)」を先に伝えるべきなんですね。
具体的な事例やユースケースを豊富に
もうひとつ効果的なのが、抽象的な技術説明ではなく、具体的な使用例や導入事例を豊富に盛り込むことです。「この技術によって、自動車の安全性がこう向上する」「医療現場ではこんな使われ方をする」といった具体例があると、記者は記事の構成を想像しやすくなります。
過去に担当したセキュリティソフトウェア企業では、技術的な機能説明だけでは記事化されにくかったのですが、「ある製造業の企業がこのソフトウェアを導入したことで、サイバー攻撃による生産ラインの停止リスクが90%減少した」という具体例を加えたところ、業界専門誌で大きく取り上げられました。
記者は自分の読者(あなたの見込み顧客)に対して「これを使うとどんなメリットがあるのか」を伝えたいと考えているので、その材料を提供することが重要です。できれば数値データも含めると説得力が増します。
視覚資料を効果的に活用する
「百聞は一見に如かず」というように、複雑な技術内容は視覚的に伝えることで理解度が格段に上がります。ただし、社内で使っている技術資料をそのまま使うのではなく、報道用に作り直すことが重要です。
以前、ある通信技術の説明で、エンジニアから受け取った図は数式と専門用語だらけで、とても報道用には使えませんでした。そこで私は「ビフォー・アフター」の比較図を作り、「従来の方法だと5分かかっていた処理が、新技術では30秒で完了」という点を視覚的に表現しました。この図は記者にも評判が良く、そのまま記事でも使用されました。
効果的な視覚資料のポイントは以下の通りです:
- 一目で分かる簡潔さを重視する
- 専門用語や略語を避ける
- 「Before/After」や「従来比較」は特に効果的
- 必ず説明文を添える(図だけで渡さない)
- メディアで使える解像度・フォーマットで提供する
「専門家」と「翻訳者」の橋渡し役に
技術広報で陥りがちな罠のひとつが、「社内の専門家vs外部の記者」という対立構造です。エンジニアは「技術的な正確さが損なわれると困る」と考え、記者は「わかりやすく伝えなければ読者に届かない」と考えます。PRご担当者はこの橋渡し役となることが重要です。
私は「技術的正確さと分かりやすさの両立」を目指して、次のようなプロセスを確立しました:
- エンジニアから技術情報を聞き取る
- 一般の人にも分かるように書き直す
- エンジニアに「技術的に間違っていないか」確認してもらう
- 同時に非技術者の社内メンバーに「理解できるか」確認してもらう
- フィードバックを元に修正し、最終稿を作成
このプロセスを踏むことで、技術的正確さと分かりやすさの両方を担保できます。特に重要なのは、「これは技術的に正確?」「これは分かりやすい?」という質問を分けて、それぞれの専門家に聞くことです。
記者に合わせた情報の「階層化」を意識する
すべての記者が同じレベルの技術理解度を持っているわけではありません。そこで効果的なのが、情報の「階層化」です。
例えば私たちは技術プレスリリースを作成する際、以下のような階層構造にしています:
- 見出し・リード文: 非技術者でも理解できるビジネス価値を中心に
- 本文前半: 一般的な業界トレンドと課題、それに対するソリューション
- 本文後半: やや専門的な技術説明(ただし専門用語は極力平易な言葉に置き換え)
- 補足資料: 詳細な技術スペックや背景技術の解説
こうすることで、一般経済メディアの記者は前半だけを参考にしても記事が書けますし、専門メディアの記者は全体を読んでより詳細な記事を書けます。実際、ある技術発表で大手経済紙と専門誌の両方に取り上げられた時、記事の深さは全く異なっていましたが、どちらも読者に合った内容になっていました。
製品価値と市場トレンドを結びつける
単に「素晴らしい技術です」と訴えるよりも、「この技術がなぜ今の市場で求められているのか」を伝えることが重要です。市場トレンドや社会課題と自社の技術をどう結びつけるかを常に考えましょう。
以前、データ分析ツールの広報を担当した際、単に「高速処理が可能」という技術的メリットだけでなく、「DXが進む中、企業が抱える膨大なデータから価値を引き出す時間を1/10に削減」という文脈で伝えたところ、技術専門誌だけでなく経営者向けメディアでも取り上げられました。
広報担当者として市場トレンドを常にリサーチし、「我々の技術がどの潮流に乗っているのか」を意識することで、ニュース価値を高めることができます。IT系では「AI」「クラウド」「サイバーセキュリティ」といったキーワードが注目されていますが、ただ流行りのワードを使うのではなく、本当にその文脈で価値があるのかを見極めることが大切です。
まとめ:技術広報成功の3つのポイント
技術広報を成功させるための要点をまとめると:
- 「翻訳者」になる: 技術を分かりやすく伝えるための言葉選びを意識し、自分が理解できなければ記者も理解できないと考える
- 価値を先に伝える: なぜその技術が重要か、どんな問題を解決するのかを先に伝え、具体的なユースケースを示す
- 情報を階層化する: 異なる専門性レベルの記者それぞれが必要な情報を得られるよう、情報を階層的に構成する
技術広報は確かに難しい分野ですが、「技術と非技術の架け橋になる」という意識で取り組めば、専門メディアはもちろん、一般メディアでも取り上げられる可能性が高まります。最初は苦労するかもしれませんが、コツをつかめば非常にやりがいのある仕事になりますよ。
デジタル時代のBtoB PR展開
デジタル化の波はBtoB PRの世界も大きく変えています。私が広報担当として初めてSNSを活用したプレスリリース配信を試みた時のことを今でも鮮明に覚えています。「BtoBなのにSNSなんて…」と社内から懐疑的な声が上がっていたんですよね。でも、今や状況は一変しました。
オンライン専門メディアの台頭とSNSの進化により、BtoB企業のPR手法も劇的に変化しています。ここでは、私自身の経験と業界の最新動向を踏まえて、デジタル時代におけるBtoB PRの展開方法について詳しくご紹介します。
オンライン専門メディアへの効果的なアプローチ
数年前、あるクラウドサービスを提供している企業のPRをサポートした際のことです。従来の業界紙だけでなく、IT系のオンライン専門メディアにもアプローチしたいと考えていましたが、どうすればよいか手探り状態でした。
最初に気づいたのは、オンライン専門メディアと従来の業界紙では「求める情報の粒度」が大きく異なるということ。オンラインメディアは速報性を重視し、より具体的で実用的な情報を求める傾向があります。
そこで私たちは、プレスリリースとは別に「編集部限定資料」という形で、製品の技術的な詳細情報や具体的な導入事例、数値データなどをまとめたドキュメントを用意しました。これが予想以上に功を奏し、複数のオンラインメディアで取り上げていただけたのです。
オンライン専門メディアへのアプローチでは、以下のポイントを押さえることが重要です:
- 記者の専門性を理解する:オンライン専門メディアの記者は、特定の分野に関する専門知識が深いケースが多いです。彼らの専門領域や関心テーマを事前にリサーチし、その視点に合わせた情報提供を心がけましょう。
- データとビジュアルの活用:オンラインメディアでは、データやビジュアル要素が記事の価値を高めます。グラフ、チャート、インフォグラフィックなど、内容を視覚的に伝えるための素材を準備しておくと採用率が高まります。
- 独自性のある切り口を提案する:「業界初」「新技術」といった定番の切り口だけでなく、「この技術がもたらす業界変革」「顧客が抱える課題の新たな解決法」など、より深い視点からのストーリーを提案しましょう。
- スピード感を持った対応:オンラインメディアは掲載判断が早いケースが多いです。問い合わせに対しては可能な限り迅速に、できれば当日中に返答することを心がけましょう。
SNSを活用した情報発信戦略
「BtoB企業にSNSは必要ない」―かつて私もそう思っていた一人です。しかし、あるソフトウェア開発企業のPR担当になって考えが大きく変わりました。
この企業では、LinkedInとTwitterを主要なコミュニケーションチャネルとして活用することで、業界内での存在感を着実に高めていました。特に印象的だったのは、技術者自身がSNSで情報発信することで生まれる「人間味」と「専門性」の両立です。
BtoB企業のSNS活用で成功するためのポイントをいくつかご紹介します:
- プラットフォームの選択と集中:全てのSNSに手を出すのではなく、自社のターゲットオーディエンスが活発に利用しているプラットフォームに注力しましょう。例えば、エンジニア向けであればTwitterやGitHub、経営層向けであればLinkedInなど。
- 専門性と人間味のバランス:高度な技術情報だけでなく、開発の舞台裏や失敗談、チームの日常など、人間味のある投稿も交えることで親近感が生まれます。私の経験では、「開発中に直面した課題とその解決プロセス」といった投稿が特に反応が良かったです。
- 一貫したメッセージングと定期的な発信:散発的な投稿ではなく、一貫したテーマやメッセージを持って定期的に発信することが重要です。例えば、毎週水曜日に「技術トレンド解説」、毎月第一金曜日に「導入事例紹介」といったパターンを作るのも効果的です。
- エンゲージメントの重視:フォロワー数だけでなく、投稿への反応(いいね、コメント、シェアなど)を重視しましょう。質問形式の投稿や、意見を求める内容は特にエンゲージメントが高まりやすいです。
コンテンツマーケティングとの連携
PRとコンテンツマーケティングは、特にデジタル時代において密接に連携すべき活動です。私自身、両者を連携させることで大きな相乗効果を生み出した経験があります。
あるBtoB企業では、「業界レポート」を作成し、その内容をプレスリリースで発表。同時に、レポートの詳細をウェブサイトで公開し、SNSでの情報拡散を図りました。この一連の取り組みにより、メディア掲載→ウェブサイト訪問→資料ダウンロード→問い合わせという流れが生まれ、最終的に複数の商談につながったのです。
BtoB PRとコンテンツマーケティングを効果的に連携させるためのアプローチをご紹介します:
- ニュース性と専門性を兼ね備えたコンテンツ作成:メディアの関心を引きつつ、潜在顧客にとって価値のある情報を提供するコンテンツを作成しましょう。自社調査データやホワイトペーパー、業界分析レポートなどが効果的です。
- コンテンツの多層展開:一つのテーマを様々な形式(プレスリリース、ブログ記事、ウェビナー、インフォグラフィック、短尺動画など)に展開することで、多様なメディアやプラットフォームでの露出機会を増やせます。
- 専門家としてのポジショニング強化:CEOや技術責任者などのキーパーソンを業界の専門家として位置づけ、コラム寄稿やインタビュー対応を積極的に行うことで、メディア露出の機会を増やしつつ、コンテンツの信頼性も高められます。
- デジタルPRツールの活用:プレスリリース配信サービス、メディアモニタリングツール、ソーシャルリスニングツールなどを活用することで、PR活動の効率化と効果測定を同時に実現できます。
デジタル時代のBtoB PR成功事例
最後に、デジタル時代ならではのBtoB PR成功事例をいくつかご紹介します。
事例1:オンラインイベントを活用した技術PRの成功
あるITインフラ企業では、コロナ禍をきっかけにオンラインカンファレンスを開始。業界専門家をゲストに迎えたウェビナーシリーズを定期開催し、その内容をプレスリリースとして配信するとともに、録画映像をYouTubeで公開しました。これにより、従来の対面イベントでは参加が難しかった地方の企業からの問い合わせが増加。結果として、顧客層の拡大に成功しました。
事例2:データを活用したPRの展開
セキュリティソリューションを提供する企業では、自社の匿名化されたユーザーデータを分析し、「業種別セキュリティリスク指標」として定期的にレポートを発表。このデータ主導のアプローチにより、専門メディアだけでなく一般経済メディアにも取り上げられる機会が増え、認知度の大幅な向上につながりました。
事例3:ソーシャルメディアを活用した危機管理
製造業のBtoB企業では、製品の不具合情報が一部SNSで拡散した際、従来のプレスリリースによる対応だけでなく、公式TwitterやLinkedInアカウントを通じて迅速に正確な情報を発信。技術責任者自らが対応策を説明する動画を公開することで、透明性の高い危機対応として業界内で高く評価されました。
デジタル時代のBtoB PRにおける課題と対策
もちろん、デジタル時代のBtoB PRには独自の課題もあります。私自身も直面してきた課題とその対策をお伝えします。
課題1:情報過多時代での注目獲得の難しさ
デジタルメディアの増加に伴い、情報量が爆発的に増えているため、単なる「新製品発表」では注目を集められなくなっています。
対策: 独自の視点や業界課題への解決策を提示するなど、コンテキストを重視したストーリーテリングを心がけましょう。数値データや調査結果を組み込むことで、訴求力を高めることもできます。
課題2:技術的専門性とわかりやすさの両立
専門性の高い内容を、専門知識がない記者や一般読者にもわかりやすく伝える必要があります。
対策: 「なぜこれが重要なのか」「どのように課題を解決するのか」という点を中心に、具体的な事例や比喩を用いて説明する工夫が効果的です。また、専門メディア向けと一般メディア向けで異なる資料を用意することも検討しましょう。
課題3:デジタルコミュニケーションにおける関係構築の難しさ
オンラインでのやり取りが中心となる中、記者との信頼関係構築が難しくなっています。
対策: オンラインでも定期的なコミュニケーションを心がけ、記者が求める情報を先回りして提供するなど、「頼れる情報源」としてのポジションを確立しましょう。オンラインでのブリーフィングセッションや、少人数の意見交換会なども効果的です。
デジタル時代のBtoB PRは、テクノロジーの活用と人間関係の構築という、一見相反する要素のバランスが求められます。しかし、この両者をうまく組み合わせることで、従来よりも効率的かつ効果的なPR活動が可能になるのです。
最終的には、どのようなツールや手法を使うにしても、「相手にとって価値のある情報を、適切なタイミングで、最適な形で届ける」というPRの基本原則は変わりません。デジタルツールはあくまでその実現を助ける手段であることを忘れないようにしましょう。
効果測定と継続的な改善
BtoB PRの効果測定と改善サイクルの構築。これが私のPR担当者としての15年の経験の中で最も苦労し、同時に最も重要だと感じてきた部分です。「記事は配信したけれど、本当に効果があったのか分からない」というフラストレーションを抱えた経験はありませんか?
特に技術的な専門性が高いBtoB企業では、PRの効果を適切に測定し評価することが難しいものです。しかし、だからこそ明確な指標設定と継続的な改善が重要になります。今回は私自身が経験した失敗と成功から学んだ、実践的なBtoB PR効果測定の方法をご紹介します。
BtoB PR特有のKPI設定の考え方
私が製造業のPR担当だった頃、上司から「PRの効果が見えない」と言われ続け、毎月の報告会がプレッシャーでたまりませんでした。なぜなら、記事掲載数という表面的な数字だけを追いかけていたからです。
BtoB PRでは、単純な「露出量」よりも「質」に焦点を当てたKPI設定が効果的です。具体的には以下のような指標が重要です:
- 専門メディアでの露出質:単なる掲載数ではなく、ターゲット業界の核となる専門メディアでどれだけ取り上げられたか
- 記事内容の質的評価:自社の強みや技術的優位性がどれだけ正確に伝わったか
- ステークホルダーの反応:取引先や業界関係者からのフィードバック
- 問い合わせ内容の変化:技術的に深い質問が増えたか、商談の質が向上したか
- 商談プロセスへの影響:PR活動がセールスプロセスの短縮に貢献したか
ある半導体製造装置メーカーでは、「技術系専門メディアでの露出の質」と「商談時の技術理解度」をKPIに設定し、PR活動の方向性を明確化しました。その結果、商談における基礎説明の時間が30%短縮され、技術的な本質的議論に早く移行できるようになったのです。
定量・定性評価の組み合わせ方
定量的指標だけでは、BtoB PRの真の価値を捉えきれません。私も以前は「記事掲載数」と「推定広告費換算」だけに固執し、本当の成果を見失っていました。しかし、ある専門家のアドバイスで評価方法を見直したところ、PR活動の真の価値が見えてきたのです。
効果的な定量指標の例:
- 専門メディア掲載数(カテゴリ別にランク付け)
- 技術記事内での言及深度(単純紹介か詳細解説か)
- 企業ウェブサイトへの専門メディアからの流入数
- 技術資料ダウンロード数の変化
- 商談リード数とPR活動の相関
重要な定性指標の例:
- メディア掲載内容の正確性(技術内容が正しく伝わっているか)
- 競合他社との比較文脈(業界内での位置づけ)
- 顧客からのフィードバック(「記事を読んだ」という言及)
- 業界専門家の評価コメント
- セールスチームからの評価(「説明しやすくなった」など)
これらの指標を組み合わせることで、より立体的なPR効果の把握が可能になります。例えば、あるソフトウェア開発会社では、「専門記事内での技術詳細度スコア」と「営業担当へのヒアリングによる商談変化」を組み合わせて評価を行い、PR予算の最適配分に成功しました。
PDCAサイクルの回し方
効果測定で終わらせず、次のアクションにつなげる。これが多くの企業で欠けている部分です。私自身も最初の数年間は「測定して報告」で終わっていましたが、それでは本当の改善は望めません。
効果的なPDCAサイクルの構築ステップ:
- Plan(計画):
- 四半期ごとの明確な目標設定
- メディア別のアプローチ計画
- 技術メッセージの整理と優先順位付け
- Do(実行):
- 計画に基づいたメディアアプローチ
- 専門性の高い技術情報の提供
- 必要に応じた技術責任者の積極的な露出
- Check(評価):
- 設定したKPIによる評価
- メディア掲載内容の質的分析
- 営業・マーケティングとの連携による影響分析
- Act(改善):
- 効果の高かったアプローチの強化
- メッセージ内容の見直しと調整
- 新たなメディア関係構築の検討
私が関わった工作機械メーカーでは、PR活動の効果測定をもとに3か月サイクルの改善プロセスを導入しました。特に「技術的理解不足」が課題として浮かび上がったときは、記者向け技術セミナーを開催。その結果、次のサイクルでは技術内容の正確性が大幅に向上し、問い合わせ質も改善されたのです。
測定結果の社内共有と活用法
PR効果の測定結果を社内で適切に共有することも重要です。かつて私は詳細なレポートを作成しても、経営層や他部門からは「何が言いたいのかわからない」と言われ続けました。この経験から、受け手に合わせた効果報告の重要性を学びました。
効果的な共有方法と活用例:
- 経営層向け:
- ビジネス指標との関連性を強調
- 競合との比較分析
- 投資対効果の明確な提示
- セールス部門向け:
- 商談に活用できる記事の具体的紹介
- 顧客からの反応事例の共有
- 今後のPRスケジュールの事前共有
- 技術部門向け:
- 技術内容の伝わり方フィードバック
- 記者からの専門的質問のまとめ
- 業界トレンドとの関連分析
例えば、医療機器メーカーでは、PR効果測定結果を部門別にカスタマイズしたダッシュボードで共有。営業部門には「顧客が関心を示した技術記事トップ5」、技術部門には「記者からの技術質問一覧」といった形で提供し、各部門の活動に直接役立つ情報として活用されました。
長期的な評価の視点
BtoB PRの真の効果は、短期的な視点だけでは測れません。私が電子部品メーカーのPR担当だった頃、四半期ごとの「爆発的な成果」を求められ苦労しました。しかし、3年間の取り組みを通じて「業界での地位向上」という長期的価値を証明できたとき、経営層の理解も得られたのです。
長期的評価の重要な視点:
- 業界内ポジショニングの変化:
- 専門家による評価の変化
- 業界記事での位置づけの推移
- 競合比較における言及内容の変化
- ステークホルダーとの関係性の深化:
- 記者との関係性の質的向上
- 専門家とのコネクション強化
- 業界団体との協力関係発展
- 社内理解度の向上:
- 他部門からのPR活動への協力姿勢の変化
- 経営層のPR投資に対する理解度向上
- 社員のPR活動への参加意欲の高まり
ある産業機械メーカーでは、PR活動の3年間の累積効果を「競合との言及比較」「技術専門家の評価変化」「商談における技術理解度の推移」といった視点で分析。その結果、短期的には目立たなかったPR効果が、長期的には「業界における技術リーダーとしての地位確立」という大きな成果につながっていることが明確になりました。
失敗から学ぶ効果測定の改善
最後に、失敗事例からの学びも共有します。私自身、ある技術系ベンチャー企業でのPR活動で大きな失敗を経験しました。「掲載数」だけにこだわり、技術内容の正確性を評価していなかったのです。その結果、多くのメディアに取り上げられたものの、技術の優位性が正しく伝わらず、むしろ誤解を生んでしまいました。
この経験から学んだ改善ポイントは:
- 測定指標のバランス:数だけでなく、内容の質も重視する
- フィードバックループの構築:評価結果をすぐに次のアクションに反映する仕組み
- 多部門連携の測定体制:PR部門だけでなく、技術・営業・マーケティングと連携した総合評価
- 柔軟な指標の見直し:環境変化に応じて測定指標自体を定期的に見直す
この失敗後、「技術内容の正確性スコア」という新たな指標を導入し、技術部門と共同での記事評価を実施。その結果、掲載数は若干減ったものの、技術的な誤解は大幅に減少し、質の高い商談につながるようになりました。
BtoB PRの効果測定は決して簡単ではありませんが、だからこそ工夫の余地があり、競合との差別化ポイントにもなり得ます。数値だけでなく質的評価も大切にし、常に改善を続けるサイクルを回していくことで、本当の意味で「効果のある」PR活動を実現できるのです。
さいごに
BtoB PRの世界は、一般消費者向けのPRとは異なる独自の難しさがあります。私自身、専門メディア対応に苦戦した経験が何度もあります。技術的な詳細を正確に伝えつつも、魅力的なストーリーに仕立てる作業は、本当に頭を悩ませることもありました。でも、そんな試行錯誤の中で学んだことが、今の私の財産になっています。
特に印象に残っているのは、ある産業機器メーカーのPR担当として活動していた時のこと。業界専門誌の記者との関係構築に何ヶ月もかけていたにもかかわらず、なかなか記事化されなかった製品がありました。どんなに技術的優位性を説明しても響かない…。そんな時、ふと気づいたのは、私たちが「技術スペック」を語っていたのに対し、記者は「業界の課題解決」の視点を求めていたということでした。
視点を変えてアプローチし直したところ、翌月には大きな特集記事として取り上げられたのです。このとき学んだのは、専門性の高い情報であっても、最終的には「誰の、どんな課題を解決するのか」という点に焦点を当てることの重要性でした。技術そのものではなく、その技術がもたらす価値を伝えることで、記者の共感を得られたのです。
また、長期的な信頼関係構築の価値も身をもって感じています。一度関係ができた専門メディアの記者とは、その後も継続的に良好な関係を維持することで、新製品発表のたびに声をかけてもらえるようになりました。時には競合他社の情報を教えてもらえることもあり、業界動向の把握にも役立ちました。この経験から、BtoB PRでは「一発の露出」より「継続的な関係構築」が重要だと実感しています。
デジタル時代になり、PRの手法は多様化していますが、基本的な考え方は変わりません。技術的な内容を、専門家にも一般の方にも理解しやすい形で伝える。そして、製品やサービスの背景にあるストーリーや価値を丁寧に説明する。この基本を大切にしながら、新しいデジタルツールやプラットフォームを活用していくことが、これからのBtoB PRの鍵となるでしょう。
最後に一つだけアドバイスをさせていただくなら、「焦らずに着実に」ということです。BtoB PRは、即効性のある成果を出すことが難しい領域です。時には何ヶ月も記事化されないこともあるでしょう。しかし、地道な関係構築と価値ある情報提供を続けることで、必ず成果は表れてきます。短期的な露出数だけでなく、質の高いメディア掲載や、業界での信頼獲得など、長期的な視点で成果を測定することも大切です。
BtoB PR戦略は、技術と人間関係のバランスが求められる奥深い分野です。本記事で紹介した戦略やテクニックを参考に、皆さん自身の会社や製品に合ったPR活動を展開してみてください。最初は難しく感じることもあるかもしれませんが、継続的な取り組みにより、確実にその成果は表れてくるはずです。