メディアでの露出を増やしたい…記者に情報を届けたいけれど、なかなか取り上げてもらえない…。「プレスリリースを送っても反応がない」「記者とどう接すればいいのかわからない」という悩みを抱えている方は少なくないでしょう。
記者との関係構築は、一朝一夕でできるものではありません。しかし、記者の思考や働き方を理解し、適切なアプローチを続けることで、確実に信頼関係を築くことができるのです。この記事では、「記者との効果的な関係構築方法」について、具体的なステップやノウハウを解説します。
最近のデジタル環境の変化により、記者とのコミュニケーション方法も大きく変わってきました。SNSの活用やオンラインでの関係構築など、新しい手法も取り入れながら、業界別の特性を踏まえた実践的なアドバイスをお伝えしていきます。
この記事を読むことで、今日から実践できる記者アプローチの方法や、長期的な信頼関係を構築するためのコミュニケーション戦略を身につけることができます。メディア露出の成果を着実に高めるための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
記者の視点と働き方を理解する
記者との関係構築で最も重要なのは、「彼らの立場や思考を理解すること」です。
記者は単なる「情報の受け手」ではなく、日々山のような情報の中から「価値あるもの」を選別する専門家だということを理解しておくことが重要です。
記者が日々直面している現実
記者の多くは、毎日100件以上のプレスリリースやニュースに目を通しています。ある全国紙の記者から聞いた話では、「1日に200件近いメールが届くことも珍しくない」とのこと。その中から記事化するのはわずか数件というケースがほとんどです。
彼らは常に「読者にとって価値ある情報は何か」を判断基準にしています。自社の売上が伸びた、新製品を発売した、というだけでは記者の興味を引くのは難しいのです。「それが社会やユーザーにどんな意味を持つのか」という視点が求められます。
記者にとっての「価値ある情報」とは
では、記者は具体的にどのような情報を求めているのでしょうか? 業界や担当分野によって細かな違いはありますが、共通して求められるのは以下のポイントです:
- ニュース性・新規性 – 市場初、業界初、前例のない取り組みなど
- 社会的影響力 – 多くの人々の生活や業界全体に影響を与える内容
- 具体的なデータや事実 – 抽象的な表現ではなく、具体的な数字や事例
- 背景にあるストーリー – 数字だけでなく、その背景にある人間ドラマ
- 読者にとっての有用性 – 読者が知って得をする、役立つ情報
私がIT企業の広報担当だった頃、「業界初の機能を搭載」というプレスリリースを配信しましたが、ほとんど反応がありませんでした。そのリリースを専門家に見てもらったところ、「具体的にユーザーにどんなメリットがあるのか分からない」と指摘されました。これがきっかけで、「技術そのもの」ではなく「その技術がもたらす具体的な変化」を伝えることの重要性を学びました。
各メディアタイプの記者が求める情報の違い
メディアの種類によって、記者が求める情報は大きく異なります。これを理解せずに同じ内容のプレスリリースを一斉配信しても、効果は薄いでしょう。
全国紙・大手ニュースサイトの記者
- 社会的インパクトのある情報
- 業界全体のトレンドを示すデータ
- 多くの人に関わる問題提起
ある全国紙の記者から「企業の売上や新製品より、その市場がどう変わるか、人々の生活をどう変えるかが知りたい」と言われたことがあります。
業界専門媒体の記者
- 業界内の詳細な動向
- 専門的な技術情報
- 同業他社との差別化ポイント
「技術的な詳細情報がなければ記事にする価値がない」と考える記者もいます。業界専門媒体ではより深く、専門的な情報が求められます。
地方メディアの記者
- 地域との関わり
- 地元経済への影響
- 地域住民に直接関係する情報
地方紙の記者とのやり取りでは「全国区の話より、地域にどう貢献するかの方が重要」という話をよく聞きます。
記者の1日のスケジュールを知る
記者の忙しさを理解することも大切です。ある新聞記者から聞いた一般的な1日の流れはこんな感じです:
- 朝:前日のニュースチェック、メール確認、編集会議
- 午前中:取材準備、電話取材
- 午後:現場取材、記事執筆
- 夕方〜夜:編集作業、締め切り対応
- 深夜:翌日の準備、情報収集
この忙しいスケジュールの中で記者の目に留まるためには、「タイミング」も重要です。記者に連絡する最適な時間帯を知ることで、レスポンスの確率が大きく変わります。私の経験では、多くの記者は午前10時〜11時、または午後3時以降がメールチェックのタイミングとして比較的余裕があるようです。
記者の本音を知る方法
記者の視点を理解するための最も効果的な方法は、直接対話することです。以下のような機会を積極的に活用しましょう:
- 記者会見や発表会の後の懇親会: フォーマルな場では聞けない本音が出ることも
- 個別の取材機会: 記事になった後のフィードバックを求める
- 業界のセミナーやイベント: 記者も参加している場合が多い
- SNSでの交流: 多くの記者がTwitterなどで情報発信している
かつて私はある懇親会で、参加者の記者から「実は競合他社の発表の方が記事になりやすかった理由」を率直に教えてもらったことがあります。それは「データの提示方法」と「具体的なユーザー事例の有無」だったのです。
記者との信頼関係構築の基本姿勢
最後に、記者との関係構築において最も大切な基本姿勢についてお伝えします:
- 誠実さと透明性を保つ: 嘘や誇張は最終的に信頼を損なう
- 記者の立場を尊重する: 締切や編集方針など、彼らの制約を理解する
- Win-Winの関係を目指す: 記者が良い記事を書けるよう支援する
- 長期的な視点で接する: 一時的な掲載よりも継続的な関係構築を重視する
記者の視点と働き方を理解することは、単なるテクニックではなく、PR活動の根幹をなす考え方です。彼らのニーズを理解し、その目線に立ってコミュニケーションを取ることで、自然と信頼関係は構築されていくのです。まずはこの基本を押さえ、次のステップである「効果的なアプローチ方法」へと進みましょう。
効果的な初期アプローチの方法
記者との関係構築において、最初のコンタクトは特に重要です。ここでは、記者に好印象を与え、継続的な関係を築くための効果的な初期アプローチの方法を詳しくご紹介します。
最適なコンタクト手段の選び方
記者にアプローチする方法はメール、電話、SNS、イベントでの対面など様々ありますが、どの方法が最適かは記者の属性やメディアの特性によって大きく異なります。
私が以前、テック系のスタートアップの広報支援をしていた時のことです。業界紙の記者にメールで何度もアプローチしたのですが、全く反応がありませんでした。後で分かったのは、その記者はメールをほとんどチェックしておらず、電話でのコンタクトを好んでいたのです。結局、思い切って電話してみると、「あぁ、メールはほとんど見てなくてね」と笑いながら教えてくれました。以来、記者ごとの好みを把握することの重要性を痛感しています。
メディア別の最適なアプローチ方法
メディアタイプ |
推奨コンタクト手段 |
理由・特徴
|
全国紙・大手メディア |
公式窓口→個別メール |
組織的なため、まずは公式ルートから |
専門紙・業界紙 |
電話→メール |
専門性が高く個別の関係構築が重要 |
ウェブメディア |
メール・SNS |
デジタルコミュニケーションに慣れている |
フリーランス記者 |
SNS→メール |
個人的なつながりを作りやすい |
テレビ・ラジオ |
電話→対面 |
時間的制約が厳しく即時性を重視 |
また、初めてコンタクトを取る際には、できれば共通の知人や紹介経由だと成功率が格段に上がります。私の経験では、紹介経由の場合はほぼ100%レスポンスがあるのに対し、いきなりの飛び込みコンタクトだとなかなかレスポンスが無いことが多いです。
ですから、逆算PRメソッドに沿って、小さなメディアから着実にメディア実績を重ねてアプローチするメディアや記者を徐々に変えていくことをお勧めします。
アプローチ時の基本マナーと注意点
記者へのアプローチでまず心がけるべきは、記者の時間を尊重することです。彼らは常に締め切りに追われています。私も最初のころは、「今少しお時間よろしいですか?」と気軽に電話をかけてしまったことがありましたが、後で「締め切り直前だったから迷惑だったよ」と正直に言われたことがあります。あれ以来、コンタクトする前に締め切りのサイクルを意識するようにしています。
記者アプローチ時の基本マナーチェックリスト
- □ 締め切り時間帯を避ける(朝・昼・夕方が比較的余裕がある)
- □ 用件を簡潔にまとめておく(30秒で説明できるように)
- □ 相手の媒体の特性をよく理解しておく
- □ 記事化できる具体的な視点や切り口を用意する
- □ 自社の基本情報をコンパクトにまとめておく
特に最初のコンタクトでは、「この人なら付き合う価値がある」と思ってもらえるかどうかが重要です。そのためには、自社や製品の素晴らしさを一方的に話すのではなく、「なぜその記者・媒体にとって価値のある情報なのか」という視点でアプローチすることが不可欠です。
記者の興味を引く情報提供のコツ
記者の興味を引くための最大のポイントは、「ニュース性」と「独自性」です。当たり前ですが、記者は「ニュース」を求めています。いくら親しくなったからといって、ニュース性のない情報では記事にはなりません。
記者の興味を引く情報の特徴
- 社会的インパクトがある:多くの人に影響を与える内容か
- タイムリーな話題と関連している:今世の中で注目されているテーマと関連しているか
- 具体的なデータや実例がある:抽象的な話ではなく具体的な裏付けがあるか
- 独自の視点や切り口がある:他社や一般的な見解とは異なる視点を提供できるか
- 読者(視聴者)の役に立つ:メディアのターゲットにとって有益な情報か
このような特徴を持つ情報を提供できると、記者の反応は格段に良くなります。また、情報提供の際には「記者限定情報」や「先行情報」として提供すると、記者としても独自性のある記事が書けるので喜ばれます。
一方で、よくある失敗が「自社の宣伝に終始する」アプローチです。「すごい製品なので取り上げてください」といった内容では、広告と変わらないと思われてしまいます。実際、そのようなプレスリリースを出してしまう企業は少なくありません。
具体的なアプローチ例文と分析
では、実際にどのようなメールが効果的なのでしょうか。以下に、良い例と悪い例を示します。
悪い例:
件名:新製品のご案内
本文:
○○新聞 △△様
お世話になっております。××株式会社の佐藤です。
このたび、弊社では画期的な新製品「スーパーツール」を発売することになりました。
この製品は非常に優れた機能を持ち、多くのユーザーから好評をいただいております。
ぜひ貴紙で取り上げていただければ幸いです。
詳細は添付資料をご覧ください。
よろしくお願いいたします。
これでは記者の興味を引くことは難しいでしょう。ニュース性や具体性に欠け、「自社視点」で書かれています。
良い例:
件名:【独自データ】在宅勤務の生産性を45%向上させる新ツール、開発者インタビュー可能
本文:
○○新聞 働き方改革担当 △△様
××株式会社広報の佐藤です。先日の在宅勤務の課題に関する記事、大変参考になりました。
貴紙読者にとって価値があると思われる情報をお送りします。
弊社では1,000社・5,000人を対象に「在宅勤務の最大の課題」を調査し、その結果を基に新ツール「スーパーツール」を開発しました。導入企業では平均45%の生産性向上を実現しています。
<独自ポイント>
・国内最大規模の在宅勤務課題調査(詳細データ提供可能)
・開発者は元Google勤務のエンジニアで、自身の在宅勤務の苦労から着想
・導入企業の具体的な活用事例(取材アレンジ可能)
△△様の近日の取材予定に合わせ、開発者や導入企業へのインタビューをアレンジ可能です。
ご興味があれば、まずは詳細資料をお送りしますので、ご連絡いただければ幸いです。
お忙しいところ恐縮ですが、ご検討いただけますと幸いです。
この例では、記者が以前書いた記事に言及することで関連性を示し、具体的なデータや差別化ポイントを簡潔に伝えています。また、「取材のアレンジが可能」という実用的な提案も含んでいます。
初期アプローチ後のフォローアップ
初めてコンタクトを取った後のフォローアップも重要です。私の経験では、最初の接触だけで記事化されることは稀で、継続的なコミュニケーションが関係構築には欠かせません。
特に、最初のアプローチで「今は記事にできないが、情報は興味深かった」と言われた場合は、定期的に関連情報を提供することで関係を深めていくチャンスです。
効果的なフォローアップの方法
- 初回コンタクトから3〜5営業日後に簡潔なフォローアップ
- 「追加情報があります」など新たな価値を提供する形で連絡
- 記者の最近の記事に対するコメントや関連情報の提供
- 関連する業界データや市場動向など、記者の仕事に役立つ情報の共有
- しつこすぎないペース(2週間に1回程度)を心がける
私が実際に経験した成功例として、あるテクノロジー記者へのアプローチがあります。最初は反応が薄かったのですが、その記者が書いた記事に関連する海外の最新研究データを見つけ、「こんな情報があるのでお役に立てるかと思いお送りします」と簡潔なメールを送りました。この情報は記者の次の記事作成に役立ったようで、お礼のメールをいただき、そこから関係が始まりました。
ただし、しつこすぎるフォローアップは逆効果です。以前、とある熱心なクライアントが「絶対に記事にしてもらいたい」と、同じ記者に1週間で5回も連絡してしまい、最終的に「もう連絡しないでください」と言われてしまったケースもありました。記者の負担にならないペースでの連絡を心がけることが大切です。
業界別・職種別の初期アプローチのポイント
業界や記者の職種によって、効果的なアプローチ方法は異なります。以下に、主な業界別のポイントをまとめます。
テクノロジー系メディア
- 技術的な詳細データや比較情報を用意する
- 実際のデモや体験機会を提供する
- 業界全体の動向と自社の位置づけを明確にする
- 海外の最新トレンドとの関連性を示す
ビジネス・経済メディア
- 具体的な数字やビジネスインパクトを強調する
- 市場規模や成長予測など経済的側面を示す
- 業界内での競争状況や差別化ポイントを明確にする
- 経営戦略や経営者
信頼関係を築くコミュニケーション戦略
記者との関係構築において、初期アプローチに成功した後の「継続的な信頼関係の構築」こそが、本当の意味でのメディアリレーションの肝となります。私自身、PR担当として15年以上の経験の中で、一度の成功よりも継続的な関係構築の重要性を痛感してきました。ここでは、記者と長期的な信頼関係を築くための実践的なコミュニケーション戦略をお伝えします。
定期的な情報提供こそが信頼の基盤
記者との関係を深めるためには、「記事になるかどうか」だけでなく、「役立つ情報を継続的に提供する」という姿勢が重要です。私が担当していた製造業のクライアントでは、四半期に一度、業界動向レポートを独自にまとめて関連記者に送付していました。
このレポートは必ずしも自社の宣伝を前面に出すものではなく、業界全体の状況を客観的にまとめたものでした。最初は反応がほとんどありませんでしたが、3回目を過ぎたあたりから「いつも参考にしています」という返信をいただくようになり、やがて「この点についてもう少し詳しく知りたい」という問い合わせが来るようになったんです。
効果的な定期情報提供のポイントは以下の通りです:
- 記者の専門領域や関心に合わせたカスタマイズ
- 自社PRよりも客観的な情報と洞察を中心に構成
- 情報を整理・要約し、忙しい記者の時間を節約する工夫
- 競合他社も含めた業界全体の俯瞰的な視点の提供
- 定期的かつ予測可能なタイミングでの提供
特に最後の「定期性」は非常に重要です。不定期に情報を送るよりも、例えば「毎月第一月曜日」など決まったタイミングで送ることで、記者側も「そろそろあの会社からの情報が来る頃だな」と認識してくれるようになります。
オフレコ情報の適切な扱いが信頼を深める
記者との関係が深まってくると、オフレコ情報(非公開情報)の共有が信頼関係を一層強化することがあります。しかし、この「オフレコ」という言葉の使い方には十分な注意が必要です。
私は若手PR担当時代、ある大手メディアの記者に「これはオフレコですが」と前置きして情報を伝えたものの、翌日の記事に「関係者によると」という形で掲載されてしまい、社内で大問題になった苦い経験があります。後でわかったのは、私と記者の間で「オフレコ」の定義が異なっていたことでした。
オフレコ情報を共有する際の具体的なポイントをまとめました:
事前の明確な合意を取る:「これはオフレコでお願いします」と伝えるだけでなく、「記事にはしないでいただきたい」「背景情報としてのみご理解いただきたい」など、より具体的に条件を明示する
段階的な取り決めを理解する:
- 完全オフレコ:どこにも書けない、引用もできない情報
- 背景説明:情報源を明かさずに書ける情報
- 引用可能だが情報源非公開:「関係者によると」などと書ける情報
- 社名のみ非公開:「A社の担当者は〜」と書ける情報
メール・文書でのフォローアップ:口頭での説明後、「本日お伝えした○○に関する情報は完全オフレコとしてお願いします」などとメールで確認する
信頼できる記者との関係が構築できてくると、オフレコ情報の共有が製品発表前の記者の理解を深めたり、複雑な業界状況の背景説明になったりと、質の高い報道につながることも多いです。ただし、「この情報なら漏れても大丈夫」という基準で共有することを心がけましょう。
業界動向の共有が価値を生む
記者が最も求めているのは、単なる自社の情報ではなく、「業界全体を俯瞰できる視点」や「トレンドの先読み」です。私が担当していたIT企業では、四半期ごとに「市場動向分析会」を社内で開催し、そこで議論された内容を整理して特定の記者にブリーフィングしていました。
この取り組みが功を奏し、やがてその記者から「業界動向の特集を組むので、御社の視点をぜひ記事に入れたい」という依頼をいただくようになりました。私たちが単なる「一企業の広報担当」ではなく、「業界の動向に詳しい情報源」として認識されるようになったのです。
効果的な業界動向共有のテクニックとしては:
- 自社だけでなく競合も含めた市場全体の動きを伝える
- 海外の最新事例や研究データなど、記者が単独では入手しにくい情報を提供する
- 統計データを視覚的にわかりやすくグラフ化して提供する
- 業界用語や専門的な内容をわかりやすく翻訳・解説する
「こうなるだろう」という予測よりも「こうなる可能性がある理由」を説明する
特に最後の点は重要で、単なる予測を伝えるのではなく、その予測に至った根拠や思考プロセスを共有することで、記者自身の分析力向上にも貢献できます。そうすることで「この人からの情報は価値がある」と認識してもらえるようになるんですね。
記者との適切な距離感を保つ
記者との関係が深まると、ついつい友人関係のような感覚になってしまうことがありますが、ここは注意が必要です。あくまでも「プロフェッショナルな協力関係」という基本を忘れないようにしましょう。
かつて私は、ある記者と個人的にも仲良くなり、飲み会の席で会社の内部事情について話しすぎてしまったことがあります。その内容が直接記事になることはありませんでしたが、その後の取材の質問内容に微妙に影響していることに気づき、冷や汗をかいた経験があります。
適切な距離感を保つためのポイントは:
プライベートとビジネスの境界を明確に:飲食を共にする機会があっても、話題はあくまでも業界や仕事に関することを中心に
SNSでのつながりに注意:個人アカウントでつながる場合は、投稿内容やコメントに特に注意する
特定の記者だけを優遇しない:公平性を保ち、情報提供や取材機会を特定の記者に偏らせない
過度な期待をしない:良好な関係があっても、記者はあくまで読者・視聴者のために記事を書くプロフェッショナルだと認識する
「この記者とは仲が良いから、好意的な記事を書いてくれるだろう」という期待は禁物です。むしろ、仲の良い記者ほど「ひいき」と思われないよう、より客観的な姿勢で接することも少なくありません。
「記者の仕事」を深く理解する
信頼関係構築の鍵は、記者がどのような環境で、どのような制約の中で働いているかを理解することです。私はこれまでの経験から、多くの記者が直面している課題について理解を深めてきました:
- 締切プレッシャー(特にデジタルメディアは即時性が求められる)
- 記事本数のノルマ(量と質のバランス)
- 専門分野以外の領域もカバーしなければならない状況
- 事実確認の徹底と速報性のジレンマ
- 編集部内での企画通過の難しさ
これらの課題を理解した上で、例えば「明日締切の記事があるとのこと、追加情報は今日中に必ずお送りします」「専門用語を使わず、わかりやすい説明資料を準備しました」など、記者の仕事をサポートする姿勢を示すことが信頼につながります。
あるIT記者から聞いた話では、「取材後に言った内容を文字起こしして送ってくれる広報担当者」「専門用語の意味をわかりやすく解説したグロッサリーを作ってくれる担当者」は非常に助かるとのことでした。記者の立場になって「何があれば仕事がしやすいか」を考えることが、長期的な信頼関係の構築につながるのです。
記者の個性と好みに合わせたアプローチ
記者も一人ひとり個性があり、情報収集や取材のスタイルが異なります。私が経験した中で、記者のタイプ別のアプローチ方法をご紹介します:
データ重視型記者:
数字や統計を好み、客観的事実に基づく記事を書く傾向がある記者です。こうした記者には、グラフや表を多用した資料を用意し、主観的な表現よりも具体的な数値で説明することが効果的です。「約30%増加」ではなく「32.5%増加」という具体的な数字を示すことで信頼を得られます。
ストーリー重視型記者:
人間ドラマや背景ストーリーに関心を持つ記者です。製品やサービスの背後にある開発秘話や、実際のユーザー事例を詳しく提供することで、魅力的な記事につながります。「この機能を開発したきっかけは、開発者自身が直面した課題だった」といったエピソードが喜ばれます。
批評家タイプの記者:
鋭い視点で業界の問題点を指摘するタイプの記者です。こうした記者に対しては、自社の弱点や課題を隠さず、むしろオープンに議論する姿勢が信頼を生みます。「まだ解決できていない課題はこれです」と正直に伝えることで、むしろ誠実な企業として評価されることもあります。
専門知識追求型記者:
技術的な詳細や専門的な内容を深く掘り下げるタイプの記者です。こうした記者には、技術者や専門家との直接の面談機会を設けたり、詳細な技術資料を提供することが効果的です。
どのタイプの記者に対しても、共通して大切なのは「その記者が書いた過去の記事をしっかり読む」ことです。記事の書き方や着眼点を理解することで、その記者が求める情報の種類や深さがわかってきます。
長期的な関係構築のための具体的なアクション
最後に、記者との信頼関係を長期的に維持するための具体的なアクションをまとめます:
1. 定期的な「価値ある情報」の共有
- 月1回の業界レポート送付
- 四半期ごとの市場動向ブリーフィング
- 年2回の技術トレンド予測レポート
2. 記者のキャリアパスに沿ったフォロー
- 記者の異動・担当変更時には改めて自己紹介
- 新任記者向けの基礎勉強会の提案
- 記者の昇進・受賞など節目での congratulatory message
3. 迅速・正確な対応の徹底
- 問い合わせ
デジタル時代の記者対応
SNSが普及し、情報収集の方法が大きく変わった今、記者との関係構築もデジタルシフトしています。私自身、10年前まではメールや電話だけが記者とのコミュニケーション手段でしたが、今ではSNSを活用した関係構築が当たり前になりました。この変化に取り残されないためのポイントをお伝えします。
SNSを活用した関係構築
Twitter(X)やLinkedInなどのSNSは、記者との関係構築において非常に強力なツールになっています。以前、食品系メーカーのPRを担当していた時、特定の業界記者のTwitterをフォローすることから始めました。その記者の興味関心を理解し、時々投稿に「いいね」を付けたり、専門的なコメントを残したりすることで、徐々に存在を認識してもらえるようになったんです。
具体的なアプローチ方法としては、まず記者のSNSアカウントを見つけることから始めます。多くの記者はTwitterやLinkedInで自分の担当分野や興味関心を発信しています。フォローする際には、あなたの肩書きやどのような情報を発信できる立場なのかが分かるプロフィールを設定しておくことが大切です。
また、SNSでの関係構築で注意したいのは、いきなり取材依頼や自社の宣伝をしないことです。ある時、急いでいたためSNSのDMで「ぜひ取材してください!」と送ってしまったことがありましたが、当然無視されてしまいました。まずは記者の投稿に対して有益なコメントやリアクションを繰り返し、存在を認識してもらうことから始めましょう。
【SNS活用のポイント】
- 記者のSNSをフォローし、投稿に適切なリアクションをする
- 自分のプロフィールに肩書きや専門分野を明記する
- いきなり売り込みはせず、まずは価値ある情報を提供する
- 業界の話題についての見解を適度に発信し、専門性をアピールする
オンラインコミュニケーションのポイント
デジタル時代には、オンラインでのコミュニケーションスキルも重要になります。私が最近特に意識しているのは、オンラインミーティングやZoom取材での対応です。以前、大手IT企業のPR担当者として、コロナ禍でオンライン取材が増えた際、最初は戸惑いましたが、試行錯誤の末にいくつかのコツを掴みました。
オンライン取材では、対面よりも集中力が途切れやすいため、話す内容を簡潔にまとめることが重要です。長々と説明すると記者の興味を失ってしまいます。また、資料や画面共有を効果的に活用して視覚的に訴えることも有効です。
ある製品発表の際、15分間の短いZoom取材の機会がありました。最初は長い説明をしようとしていましたが、記者の反応を見ながら、「この製品のポイントは3つです」と簡潔に伝え、あとは記者の質問に答える形に切り替えたところ、予想以上に良い記事になったことがあります。
また、オンラインでは表情やジェスチャーが伝わりにくいため、意識的に表情豊かに、声のトーンにも変化をつけることが大切です。カメラ位置も目線の高さに合わせ、照明も工夫することで、より好印象を与えられます。
【オンライン取材成功のポイント】
- 説明は簡潔に、要点を3つ程度に絞る
- 視覚資料を効果的に使用する
- 表情や声のトーンに変化をつける
- カメラ位置や照明に配慮する
- 事前に通信環境をチェックする
デジタルプレスキットの活用法
従来の紙資料に代わり、今はデジタルプレスキットの重要性が高まっています。デジタルプレスキットとは、記者が記事作成に必要な情報をオンラインで簡単にアクセスできるようにまとめたものです。
実際に私がある中小企業のPRを担当していた時、限られた予算の中で効果的なメディア露出を目指していました。そこで、Googleドライブを活用して、プレスリリース、製品画像、創業者のプロフィール、よくある質問とその回答などをひとつのフォルダにまとめ、URLを記者に共有するようにしました。
するとどうでしょう。それまで反応の薄かった記者から「必要な情報がすぐに手に入るので助かります」と好評を得ることができたんです。特に締め切りに追われている記者にとって、すぐに使える形で情報が整理されていることは非常に価値があります。
デジタルプレスキットを作る際のポイントは、記者が求める情報を予測して先回りで用意しておくことです。具体的には以下のような内容を含めると良いでしょう:
【デジタルプレスキットに含めるべき要素】
- プレスリリース(テキスト形式とPDF形式の両方)
- 高解像度の画像(製品、経営陣、オフィスなど)
- 短い会社概要と沿革
- キーパーソンのプロフィール
- よくある質問と回答
- 関連データや調査結果
- 過去のメディア掲載実績
- 連絡先情報
最近では、単にファイルを置くだけでなく、Notionやサイト形式でデジタルプレスキットを作成する企業も増えています。見やすさと使いやすさを重視することで、記者の負担を減らし、より良い関係構築につながります。
デジタル時代ならではの注意点
最後に、デジタル時代の記者対応における注意点をいくつか共有します。
まず、情報の拡散スピードです。SNSの普及により、ニュースは瞬く間に広がります。以前、ある企業の危機管理広報を担当していた際、誤った情報がTwitterで拡散し、わずか30分で大きな騒動になってしまいました。デジタル時代では、特に危機管理において迅速な対応が求められます。
次に、プライバシーとオフレコの境界です。SNSでつながっている記者との会話が、公私どちらの立場なのかが曖昧になることがあります。私自身、記者とSNSで親しくなったことで油断し、正式発表前の情報を少し匂わせるような発言をしてしまい、ヒヤリとした経験があります。デジタルでのコミュニケーションでも、オフレコとオンレコの区別は明確にしましょう。
最後に、情報の永続性です。一度デジタル上に出た情報は残り続けます。以前送ったメールや投稿が、何年も後に掘り起こされることもあります。常に「この情報が公になっても問題ないか」という視点でチェックすることが大切です。
デジタル時代の記者対応は、ツールや手法は変わっても、基本は「記者が欲しい情報を、使いやすい形で、タイミングよく提供する」という点は変わりません。新しいツールやプラットフォームを活用しながらも、記者の立場に立って考え、Win-Winの関係を築くことを常に心がけましょう。
時代が変わっても変わらないのは、記者との信頼関係の重要性です。デジタルツールはあくまでその関係を築くための手段であって、目的ではありません。ツールに振り回されるのではなく、ツールを上手に活用しながら、記者との良好な関係構築を目指していきましょう。
業界別アプローチ戦略
業界によって記者との関係構築の方法は大きく異なります。私自身、PR会社での勤務経験を通じて、「同じ手法で全ての業界の記者にアプローチしようとして失敗した」経験が何度もあります。特に初めての業界に挑戦するときは、手探り状態で苦労することが多かったですね。ここではその経験を踏まえて、業界別の効果的なアプローチ方法を紹介します。
BtoB企業の記者対応戦略
BtoB企業のPRは一般消費者向けのPRと比べて「専門性が高く、ニュースとして取り上げてもらいにくい」という特徴があります。私が初めてIT系のBtoB企業を担当した時は、記者にアポイントを取ることすら難しく、最初の半年間はほとんど成果が出せませんでした。
しかし、次の3つのポイントを意識することで状況が劇的に改善しました:
①専門知識の提供者としてのポジショニング
BtoBの記者は、専門分野における深い知見を常に求めています。企業の製品やサービスをPRするだけでなく、業界動向や市場分析など、記者が記事作成に活用できる「専門知識」を提供する姿勢が重要です。
私の経験では、あるクラウドセキュリティ企業のPRを担当した際、単に自社製品の紹介だけでなく「最新のサイバー攻撃動向と対策」というテーマで記者向けの勉強会を開催しました。結果的に、5名の専門誌記者との関係を構築でき、その後の継続的な露出につながりました。
②データで語る習慣をつける
BtoB分野の記者は、感覚的な話よりも具体的なデータや事例を重視します。「市場が拡大している」ではなく「年間成長率○○%で拡大している」といった具体的な数字を提供しましょう。
当時私が担当していた製造業のクライアントでは、自社での導入事例について「生産効率が向上した」という曖昧な表現しかできていませんでした。そこで、「導入前と比較して生産効率が23%向上、不良品率が17%減少」といった具体的な数値を記者に提供したところ、業界紙で大きく取り上げられることになりました。
③定期的な業界トレンド情報の提供
BtoB分野の記者との関係を深めるには、定期的な情報提供が効果的です。四半期ごとの業界レポートや、海外の最新動向など、記者が価値を感じる情報を継続的に届けることで、あなたを「頼れる情報源」として認識してもらえます。
わたしたちのチームでは、IT業界の記者向けに月1回の「業界トレンドメール」を発信していました。これは直接的な宣伝ではなく、業界の最新情報をキュレーションしたもの。このメールをきっかけに記者から「詳しく話を聞きたい」と連絡をもらうことが増え、関係構築の入り口になっていました。
さいごに
PR活動における記者との関係構築は、まさに「種まき」のようなものだと実感しています。一晩で関係が育つわけではありませんが、継続的な努力と誠実な対応が実を結ぶ瞬間が必ず訪れます。
私自身、PR会社でのキャリアを始めた頃は、記者からの返信がなくて焦ったり、アプローチ方法に悩んだりしたものです。一度などは、大切な情報を提供した際にまったく反応がなく、「もう見向きもされないのでは?」と不安になったこともありました。しかし、根気強く質の高い情報を提供し続けることで、少しずつ信頼関係を築くことができたのです。
記者との関係構築で最も重要なのは「継続性」です。一度や二度のコンタクトで深い関係が生まれることはまれです。情報提供や簡単な挨拶など、小さな接点を継続的に持ち続けることが大切です。時には反応がなくても、諦めずに質の高い情報を提供し続けることで、いつか必ず応答が得られるようになります。
もう一つ重要なのは「相手の立場に立つ」ということ。記者は日々締め切りに追われ、多くの情報の中から価値あるものを選別する立場にあります。そうした中で、「この人から来る情報は価値がある」と思ってもらえるよう、常に記者視点でのコミュニケーションを心がけましょう。
デジタル時代の今では、SNSやメールなど様々なコミュニケーションツールが使えます。ただし、ツールはあくまで手段であり、最終的に重要なのは「提供する情報の質」と「人間関係の信頼性」です。どんなに便利なツールがあっても、提供するコンテンツに価値がなければ関係は構築できません。
また、一度つまずいても諦めないことも大切です。記者対応で失敗したり、誤解を招いたりすることは誰にでもあります。そんなときこそ、誠実に対応し、問題解決に向き合う姿勢を見せることで、かえって信頼関係が深まることもあるのです。私自身も誤った情報を提供してしまい、記事の訂正を依頼せざるを得なくなった経験がありますが、誠実に謝罪し対応することで、その後もその記者との良好な関係を維持できました。
長期的な視点では、記者との関係は「ギブ・アンド・テイク」ではなく「ギブ・アンド・ギブ」の精神で築いていくものかもしれません。自社の情報を掲載してもらうことばかりを求めるのではなく、業界の動向や背景情報など、記者にとって有益な情報を惜しみなく提供する姿勢が、結果的に強固な関係構築につながります。
これまでの経験から言えることは、記者との関係構築は一朝一夕にはいかないものの、地道な努力が必ず報われるということ。思うような結果が出ないときもあるでしょうが、諦めずに継続することが成功への鍵です。
最後に、記者との関係構築は「ゴール」ではなく「プロセス」だということを忘れないでください。メディア環境は常に変化し、記者も異動や転職で入れ替わります。そのため、関係構築は終わりのない旅のようなもの。新しい関係を築きながら、既存の関係も大切に育てていく――そんな姿勢で臨むことが、長期的なPR成功への道筋となるでしょう。
この記事で紹介した方法は、あくまでも基本的なアプローチです。実際には、業界や企業の特性、記者の個性に合わせてカスタマイズすることが重要です。どうぞ自社の状況に合わせてアレンジしながら、記者との良好な関係構築に役立ててください。皆様のPR活動が実を結ぶことを心より願っています。